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(書評) 成功していた日本の原爆実験―隠蔽された核開発史

(著者) ロバート・ウィルコック

(出版) 勉誠出版

(評価) ★★★★★

 

洋書にありがちな「400ページの大半がくどい説明」という点を除けば、日本人に必読の書である。

私は本論は「ざっと流し読み」し、訳者による序章と分析と結論のみをじっくり読んだ。これは30分もあれば十分。

まず、訳者の「序」で書かれている「核の惨害を招かないための、最も確実な方法は日本自らの核抑止力の強化に他ならないことは明らか」という主張が現実的であり、わかりやすい。

それに続く「訳者による本書の新しい知見の要約」がきわめてよい。印象的であった部分を以下に要約する。
1 北朝鮮は中露が日本の核努力から利益を得ていることを知っている。中露とも「自立で核開発していた」と主張しているため、それを暴露されるのが不都合。
2 NPTによれば「核兵器国」は1967年1月1日の時点で核兵器を持っていた国。1945年8月12日に核実験に成功していれば、日本は核兵器国としての資格あり。
3 日本の潜在力を封印するのが、(米国が)日本の核開発を秘密にしてきた理由のひとつ。
4  いま米政府の秘密が解除されるのは、「日本の核開発容認のシグナル」かもしれない。
5  米政府は、(日本)独自の核抑止力を持たせ中朝に対する対日侵攻への抑止力を強化するのが、米国の国益上有利と、米国指導層は2006年ごろに判断したのではないか。
6 圧倒的な人口格差のあるアラブ諸国イスラエル間の中東戦争の再燃を抑止するため、1970年代に米国がイスラエルの核保有を黙認した背景に類似。

また本文では、オーストラリアの新聞「キャンベラタイムズ」が1950年11月28日に「1931年に日本が建設した原子爆弾工場がB-29によって爆撃された」と報道している。こういった「具材」は勉強になった。

訳者による鋭い洞察に触れるだけでも十分に一読の価値がある。国靖かれ。